わがまま科学者日記

純粋に科学のお話をしたい。。

2018年の読書(その2)ノーベル賞、脳、進化、そして今

終わりつつある2018年。私の今年を振り返りながら、紹介したいと思います。

(その1は、内容が「科学」ではないので、別のところにアップしてあります。)

私の iPhoneのAudibleのスクショ。

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(1)ノーベル賞

The Breakthrough: Immunotherapy and the Race to Cure Cancer

Charles Graeber 2018/11/15

今年のノーベル生理学・医学賞は、日本の本庶佑先生が受賞されて大きな話題となりました。私の遺伝子工学の先生が本庶佑先生のラボで活躍された先生ということで、大学院生時代にはラボ(京大医化学)を見学させてもらったこともありました。

 

「免疫チェックポイント阻害因子」というものも話題になっています。私も神経系の細胞と細胞の間のコミュニケーションの研究をずっとやってきていましたので、私が研究してきた分子と同じ免疫グロブリンスーパーファミリーの仲間であるPD-1が活躍するこの辺の話は興味深く感じています。また、たまたま京大医学部の先生が運営しておられる脳科学辞典に抗体関係の項目を受賞発表直前に書いたりもしました。

ナノボディ - 脳科学辞典

 

さて、この本は、がん免疫療法に関する本ですが、米国の受賞者であるジェームズ・P・アリソンさんの話題を中心にしたドキュメントです。 

ジェームズ・P・アリソン - Wikipedia

 

著者は、NYタイムズベストセラーとなった「The Good Nurse」という本を書いた人で、患者さんの体験を入れながら、医療ドラマ的な展開があって語り口がうまいです。そして、現在、アマゾンのベストセラーとなっています。

charlesgraeber | REVIEWS

 

日本でどういう本が選択されて翻訳されるのか、出版社の判断がわからないですが、この本は翻訳される可能性は低いのではないか、と思っています。本庶先生がノーベル賞を受賞したという話もでてくるのですが、簡単に触れられている程度で、受賞する可能性があった人は本庶先生以外に多数いて別に誰でもよかったのではないか、という見解を取っているからです。

 

日本では、この本が翻訳されて売れているようです。
美しき免疫の力―人体の動的ネットワークを解き明かす  2018/10/26 
ダニエル・M・デイヴィス (著), 久保 尚子 (翻訳)

        

 

本庶先生の本

 

(2)脳

The Disordered Mind  

Eric R. Kandel    2018/9/25

ノーベル生理学・医学賞を受賞したカンデル博士(コロンビア大学)の本です。これは、くせがあまりない教科書的な啓蒙書といってよいでしょう。

 

今年は、いわゆるカンデル本「Principles of Neural Science」という教科書の編集者の一人であるコロンビア大学のJ教授が突然解雇されるというニュースにも驚きました。

Thomas Jessell - Wikipedia

私自身も共同研究に加わったことがありました。

Muscle-type Identity of Proprioceptors Specified by Spatially Restricted Signals from Limb Mesenchyme. - PubMed - NCBI

 

ハーバード大学のThe Coopに行ったら、カンデル本はもう置いてなくて、この本が沢山置いてありました。ところで、カンデル本(英語)は既に全文が無料で見れるようになっています。

Principles of Neural Science, Fifth Edition | AccessNeurology | McGraw-Hill Medical

 

(3)進化

The Tangled Tree: A Radical New History of Life
David Quammen   2018/8/14 

この本は、科学の本としては、かなり癖のある本といってよいでしょう。でも、サマリー本まで発売されるほどに読まれているらしい。基本的には、遺伝子の水平伝搬(Horizontal gene transfer)ということが強調されている微生物学、進化生物学の本といったところでしょう。


ネイチャー誌の書評

著者のサイト

この本で私が再認識した日本人研究者にTsutomu Watanabe博士がありました。慶応大学医学部の教授だった研究者ということです。執筆した論文数はあまり多くなく、49才で亡くなったということで、日本では忘れ去られた研究者ということになっているのかもしれません。その研究は、現在、大問題になっている多剤耐性のメカニズムを解明したということです。慶応大学の渡辺というと、私などは渡辺格氏が思い出されるのですが。。

渡邊力 - Wikipedia

渡辺格 (分子生物学者) - Wikipedia

いずれにしても、英語圏には、素晴らしいサイエンスライターが多くいてうらやましいです。

David Quammen - Wikipedia

 

(4)今

21 Lessons for the 21st Century

Yuval Noah Harari  2018/8/30

「サピエンス全史(Sapiens: A Brief History of Humankind)」の著者Yuval Noah Harari氏(ヘブライ大学)の第3弾。ハラリ氏の鋭い考察には、いつもながらなるほどと思うのですが、歴史を語ってきた視点で、IT、人工知能やバイオテクノロジー、そしてIT企業にまで鋭い考察をしていきます。ただ「サピエンス全史」「ホモ・デウス」ででてきた話も再びでてきたりして、少しネタ切れ気味なところも。。

 

最近も中国で誕生したとされるCRISPRベビーが話題になっていますが、こういうのも、この本を読んで、人類史の観点から、じっくりと議論して欲しいと思います。

この本はまもなく翻訳本がでるでしょう。ちなみに21のレッスンとは、

Disillusionment Work Liberty Equality Community Civilization
Nationalism Religion Immigration Terrorism War Humility God
Secularism Ignorance Justice Post-Truth Science Fiction
Education Meaning Meditation

著者サイトから

21 Lessons for the 21st Century - Yuval Noah Harari