わがまま科学者日記

純粋に科学のお話をしたい。。

私の留学記(5)学会とミーティング

「何をすればよいかということはどうすれば分るのでしょうか。それは一流を見ることです。一流の人に接すること、一流の人の下で働くこと、そのために広い世界を動くことです。」
(岸本忠三、免疫学者)
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私は、若い頃から、出不精であまり旅をしない。インドア派といってよい。それでも、若い頃は体も無理がきいたし、好奇心があり、いろいろなところを見学した(今は無理である)。しかし、セントルイスというのは、観光地ではないので、そういう意味で見るべきものはほとんどないと言ってよいだろう。
 
セントルイスの便利なところは、西からも東からも同じような距離にあるということであった。日本にいる人は、ご存知ないかもしれないが、米国の東海岸と西海岸(例えば、ボストンとサンフランシスコ)を行き来するのは、時間的にも時差的(4時間帯の時差)にも海外旅行という感じがあって、時間的にも体力的にも結構負担がかかる。そのせいか、米国のど真ん中にあるワシントン大学のような研究レベルが高い大学だと、西から東から南から有名な研究者が日常的に訪れてセミナーをやっていったのは、いろいろな研究者のトークを聞くのに有益だった。
 
米国で研究している若い人達は、機会があったら、何万人もの人が集まるSfN(Society for Neurosciece)やASCBの大会のような大きなものではなく、せいぜい200-300人くらいの小さな閉ざされたミーティングに参加することを強くすすめたい(SfNの大会に参加して、海外の学会に参加したなんて自慢している若い人も多いが。)。こういう小さなクローズなミーティングには、一つのラボから参加できる人数も限られているので、ポスドクが多いラボだと参加する機会を得ることも難しいかもしれない(ということで、年老いてからは若い人に機会を譲るという意識から参加しなくなった)。また、ミーティングによっては、CVみたいなものを提出して、審査があるし、そもそも泊まり込みなので、費用も普通の学会参加とは桁違いの費用がかかる。ただ、こういうミーティングに連続して参加していけば、世界のコミュニティに認知されていく可能性も高いと思う。もちろん、良い研究をするのが本筋ではあるが、その分野の世界の一流研究者の顔だけでなく、話しぶりから歩き方まで見ておくことは刺激になるはずである。少なくとも、自分の意識や目標を、世界の一流の研究者に合わせるということには役立つ。
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渡米して、しばらくしてから、私はCold Spring Harbor Symposia on Quantitative Biologyのミーティングに参加した。年に一回だけCold Spring Harborで開かれるこのミーティングは、結構、Prestigiousなものであること、またテーマが毎年変わるので、たまたま関係したテーマでないと参加できないので、参加経験のある日本人はかなり少ないと思う。1992年のテーマは、 「The Cell Surface」というものだった。参加者のリストには書いてないが、CSH所長であったJames Watson氏なども顔を見せていた。ここに参加者のリスト(Symposium Participantsのところのpdf)があるが、多数のノーベル賞受賞者(過去、未来)が参加していた(もちろん、私の名前も掲載されている)。
 
当時は、ノーベル賞を受賞していた利根川進氏が、免疫から神経科学に転向した時期で、「免疫学は終わったので」と記憶の話を始めたトークは今でも憶えている。でも、利根川さんは、Cell Surfaceの話などしなかったと思う。いずれにしても、論文だけで名前を知っていたE Ruoslahti氏やF Bonhoeffer氏などにも挨拶をすることができた。利根川さんは、私を日本人と認識したらしく、こういうミーティングに参加している野心ある若手研究者という感じの目で見てくださった。一方の私は、利根川さんは、頭が悪いので、単純でああいうストレートな研究を速くやるしか能がないのだろうと、感じたのであった(おそらく、当時のまともな神経科学者はそう感じていたと思う)。
 
Gordon会議にも参加した。Gordon会議は、テーマが決まっていて、大抵隔年に開かれているので、日本からの参加者も多い。日本人の特徴として、日本国内の集まりでは、丁寧な挨拶ばかりしていて、そういう感じで親交が深まらないことが多い。ところが、海外に出ると気がゆるむせいか、自分のボスの悪口を言ったり、噂話をしたり、そういう本音の話をすることが多い。外国人ばかりのなかで、少しの日本人がいると、そういう人達が集まる。ミーティングの本来の目的とは違うが、そういう状況の中で、同じ日本人であるという親近感が生まる。そして、学会の中心にいるような先生方も、視察のような感じで参加されていることが多い。そういう偉い先生とも知り合いになったりすることがあるのである。私の場合、例えば、岡野栄之先生、村上富士夫先生、吉原良浩氏などとはそういうことで知り合った。
 
私の場合、こういう機会を持って、自分の意識や目標を世界の一流研究者のレベルに合わせることができたが、私のアンビションとパッションとは裏腹に、完全にそういう意識をくじかれ、日本の学術の発展に利用することができなかったのである。日本の野心ある若い人たちは、日本国内でくすぶっている教授のレベルに合わせるのではなく、世界の一流研究者のレベルに合わせるという意識を持つことが、非常に大切であると、私は思う。