科学分野の人ですと、「ファインマンの物理」を読んだことがあると思います。非常に初歩的なところから、本質をわかりやすく説明して、高いレベルにまで到達できるようになるような基礎知識を与えてくれる本でした。英語でも学べますが、深く考えることができる日本語で理解する。学問の本質的なところを、日本語で学ぶことができるのは、日本の先人のおかげです。感謝したいものです。
神経科学というのは、やはり生物、医学、心理学の分野なので、物理学と比較すると、まずは「暗記」の部分が多い学問なのだと思います。ただ、生物学のなかでも神経科学の分野、特に生理、特に電気生理学の分野は、ニュートン力学を理解するような本質的な理解が必要な分野のひとつです。こういうのは、講義を聴いて、実験をして、理解する。これが理想的なのでしょうが、そういう機会と時間のない人もおられると思います。今回は、そういう方のための資料を紹介したいと思います。岡山大学理学部を退官された酒井正樹先生の本です。
対話形式による講義
これでわかるニューロンの電気現象
– 2013/6/22 酒井 正樹 (著)
共立出版のサイトから引用。
近年,日本は「脳ブーム」の感があり,巷には関係本があふれている。ところが,脳を理解するための基礎となるニューロン(神経細胞)については,大学生でも正しく理解しているものが少ない。それは,ニューロンの理解には電気現象の理解が不可欠であるのだが,それがきちんとできていないからである。これは,わかりやすい解説書がないこと,また大学教員や高校教員の認識不足によるところが大きい。
著者は長年大学で神経生理学を教えており,ニューロンに関して,学生の知識や理解がどのようなものかよくわかっている。また,学生との対話形式ですすめてきた授業経験から,学生が抱く疑問や陥りやすい誤りにもよく通じている。それで,これまでの体験をもとに,自身の授業を再現したのが本書である。内容は,学会誌に4回連載されたもの(2012)で,多くの会員からは高い評価を得ている。
また,本書では「教科書高等学校『生物』へのコメント」という一章をもうけた。そこでは,2013年から大幅に改訂される高校教科書「生物」の内容をチェックし,具体的に問題点を指摘するとともに,改善へのアドバイスを行った。
実は、学会誌に4回連載された内容そのものが、J-STAGEから無料でダウンロードできます。以下の4回分です。
2.細胞はいかにして興奮するか
3.興奮はいかにして伝わるか
4.興奮はいかにして細胞境界を越えて伝わるか.
わかっている人から言えば、「くどい」「くだらない」「大規模生理学の時代にいまさら。。」ということになるのでしょうが、先回紹介した高校生向け参考書レベルの知識があれば、すぐに理解できるものであると思います。
これを理解したら、次はこのページ(無料)で復習しましょう。
英語でも勉強したいという方には、ハーバード大学のEdXのコース(無料)がおすすめです。共同研究をやらせていただいているCoxさんが主催しているものです。
The Fundamentals of Neuroscience | Harvard University
Part 1: Electrical Properties of the Neuron
LESSON 1 THE RESTING POTENTIAL
LESSON 2 PASSIVE MEMBRANE PROPERTIES
LESSON 3 ACTION POTENTIALS
LESSON 4 ACTION POTENTIAL PROPAGATION
Part 2: Networks and Neurons
LESSON 1 THE SYNAPSE
LESSON 2 EXCITATION AND INHIBITION
LESSON 3 SMALL CIRCUITS
LESSON 4 NEUROMODULATION
LESSON 5 POTENTIATION AND DEPRESSION
また、Duke大学Purves教授らの「Neuroscience」第2版(2001)は、NCBIで無料公開されています。この本は、神経細胞の電気現象を学ぶための教育用ソフトウェア「Neurons in Action」と同時に利用されることが多いようです。
なお、Dale Purves教授のNeuroscienceは、この夏に第6版が発売されるようです。
以下の書籍もご参考ください。
より一般的に、神経科学、生理学を概観できる教科書など。