わがまま科学者日記

純粋に科学のお話をしたい。。

真のメンターとは何か?、神経薬理学から神経科学への発展

「研究は勉強ではないし、勉強であってはならない。研究は未知への冒険なのだ。」

ジュリアス・アクセルロッド

 

「実験をしろ、そして発見しろ。」

ソロモン・スナイダー

 今回は最近気になった本を紹介します(上の言葉は、この本から引用)。

 

メンター・チェーン ─ノーベル賞科学者の師弟の絆

 – 2020/12/28

ロバート・カニーゲル (著), 熊倉鴻之助 (翻訳)

この本は、「Apprentice to Genius: The Making of a Scientific Dynasty」という1993年に出版された原著の翻訳本です。つまり、30年近く前の英語の本が、2020年末になって日本語の本になったというものです。ですから、ストーリーや内容の一部については、コミュニティでしばしば語られてきたもので、今更という感覚もあるのですが、日本語で少し昔の生命科学研究の現場というのを興味深く描いているという意味で、改めて読んでほしい一冊です。

 

翻訳した熊倉鴻之助さんは、上智大学の元教授で神経科学を研究していた研究者です。著者のRobert Kanigel氏は、サイエンスライターで、数学のラマヌジャンの評伝などで有名です。こういうサイエンスライター執筆の本というと、一般の翻訳家が担当することが多いですが、この本の場合、研究室で働いた経験もある元研究者が翻訳しているということで、言葉の使い方に違和感がなく研究者の人もスムースに読めると思います。ただ、原著の構成がやや混乱しているところもあって、そのためにやや読みにくいかもしれません。

 

話は、米国ワシントンDCの郊外にあるNIHで、現代の薬理学の基礎を築いたBernard Brodie博士(1967年ラスカー医学賞)からつながるジュリアス・アクセルロッド(Julius Axelrod、1912 -2004、1970年ノーベル生理学・医学賞)、ソロモン・スナイダー(Solomon Snyder 、b1938-、1978年ラスカー医学賞)といった研究者の「メンター」の系譜を通じて、神経薬理学から神経科学への発展の歴史を辿るというものです。また、スナイダー研の大学院生としてオピオイド受容体を同定した女性研究者Candace Beebe Pert (1946-2013) についても多く赤裸々に言及されています。

 

生命科学上の大発見の物語というと、フランクリンとワトソン、クリック(注)による「二重らせん」や「ロザリンド・フランクリンとDNA―ぬすまれた栄光」が有名ですが、この本はそういう面も指摘しながら、真のメンターとは何か?、神経薬理学から神経科学への発展の歴史というのを考えさせる本だと思います。

 

(注)最近は、英国を中心に2重らせんの発見は、フランクリンとワトソン、クリックによるものと記述されることが多くなっています。

 

人は両親を選ぶことはできないが、メンターを選ぶことはできる。

(フロイド・E・ブルーム)

 

Bernard Beryl Brodie - Wikipedia

 

ジュリアス・アクセルロッド - Wikipedia

 

 

ソロモン・スナイダー - Wikipedia

 

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